【1981年12月】
松田 どこ行ってたのかわかんないけど、ちょっと旅してきたって感じだね。
原田 多かれ少なかれ、そういうことは、ほかの作品でもあったろ?
松田 ありますね。
原田 とたんに自分の居場所、地図が見えてしまって、つまんなくなることもあるね、ときには。結局、現場っていうものは、目をつぶってさ、そこにものがある……手ざわりみたいな、気配みたいな……ときにはおびえて……賢明にものを処するってことはできないわね。そういうこと、二カ月続いたら、それはもうわからないですよ。こういう話は一般的にね、しちゃいけない話なのかもしれないけど……。やっぱり、苦しかったと思ってるんだよね、道代ちゃん。……きりないよね、そういう愚かしさってのは、われわれみんな、身の上として持つもんだから。結果的に、やっぱり、裏切られることが楽しいわけだから。
また、優作のライターの話にもどった。
原田 これ、いっしょに使おうね。エディ藩さんのプレゼントっていうのは、まったく別の価值だから。
松田 使わなきゃ悪いんじゃないかって。
原田 似合うね。
松田 そのジャンパーも似合いますね。おれにくれたやつより、いいんじゃない?
原田 そんなこたあない。おれが優作にやったやつのほうがいいって、評判なんだから。
松田 替えますか?
原田 いや、いい(笑)。ときたま、とっ替えようよ。
松田 キナコさん、来るんですか?
大楠 来ますよ、キナコさん。
———キナコさん?荒戸さん(シネマ·プラセット社長)のことですか?
松田 だれがつけたの?道代ちゃん?
大楠 いや、なんとなく。
松田 キナくさいから?(笑)
大楠 お菓子シリーズで、みんなに名前つけてたの。
———鈴木さんはなんと?
大楠 あれは、お菓子にもなにもなりませんよ(笑)。……オフレコの話しましょうか。
原田 アフレコの話。
大楠 最近、おもしろいことありました?
原田 ……これからありますよ(笑)。
大楠 『陽炎座』の話は、もういいよ。
松田 残ってないのね、もう。
大楠 だって、終わっちゃったんだもの。
———じゃ、そのあと一年遊んで暮らすというのは、おまけみたいなもんですか?
大楠 いや、おまけじゃないです。こちらのほうがメインなんです(笑)。
原田 なんでもそうですけど、たとえば映画館へ遊びにいきますよね。そのあと、どれぐらい遊べるかですね。ひどいものは何年も遊べるでしよ。
松田 現場のことだとかだったら、その直後ならあるんだけど……なんとなく口さびしくてしゃベったりするんだけど……気持ちよかったとしか、もういいようがない。前回の工藤(栄一)さんのときもそうだったし。少しずつ社会復帰してくるとさ(笑)、ひとつ終わったなという、終わったあとの問題があるんでね。もう公開が始まってるけど、あんまり関係ないのね。原田 さんとか、道代ちゃんとか、鈴木さんと会えて酒飲めるのが幸せなぐらいでね。そういえば何カ月か前にやってたんだ、という実感がちょっとくるだけでね。おれ、かなりいいかげんなんだけど、これからが問題で(笑)。
原田 別に、そういうことわかってほしいってことじゃないけどね。『ツィゴイネルワイゼン』から『陽炎座』までのあいだ、道代ちゃん、パキさん(藤田敏八)とかと遊ばせてもらって、そのなかで『ツィゴイネル……』の話なんか、いっぺんも出なかったですよ。それはまあ、あたりまえのことでね。
松田 そういうサイクルで生きてるような商売のような気がしますね、おれは。じゃなきや、もう病院入っちゃったりしてるんじゃない?
———アタマの病院?
松田 そう、たとえば鈴木さんの世界を一カ月も二カ月も一年も引きずってったらさ、ほかはもう目に映んなくなっちゃってさ、それはいやだよ(笑)。
原田 つまり、われわれにとっても映画というのは、ひとつの成立したもの、距離のあるものでね。そこで見るより仕方ないというものを残したわけでしょ。ただ、その裏のね……たとえばこう、しゃベってもね、そういうことってのはなんかこう、恥ずかしいというあれが……そんなことは、あんまり知られたくないし、見られたくないというのがあるんだね。写真なら、みんなどういうものか知ってるけど、映画はまだそうじゃない。手品師なんてのも、どんどんネ夕話して、そこまでばらした手品師てのは、そのまた次に備えてるからね、ばらすんだよ。
大楠 でも、あれもだまされてるときが楽しいね。ネ夕見せられちゃうとね、興味が半減しちゃう。くやしくてる、だまされてるときがいちばん楽しいです、手品もなにも。
松田 ナァンダ~ちゅうので一瞬、力が抜けちゃうけど、そのナァンダ~ちゅうときがとてもハイだね。持続しないけどね。
原田 みんなそうですよ。ナントカ入門書なんて書くのは、あれはもうね……。
松田・大楠 (爆笑)
———そっちだけウケてて、こっちにはわかりませんけど……。
大楠 いや、手品がね。
———優作さんが手品師になろうとか?
松田 いえいえ、道具に使われてるほうがいい(笑)。
———俳優は手品のネタじゃないでしょ。
松田 それは使いようでしょ、バカがいるからねえ(笑)。
大楠 ほんとにくやしがってたじゃない。
松田 ほんとにうれしかったねえ。
大楠 監督も葛生さん(演出協力)もさ、嚙んじゃってるの、一〇〇円玉を。
一〇〇円玉?なんのこっちゃ?!と思って聞いても、素直に教えてくれる方々ではない。見かねた原田 さんが、やっとネタを明かしてくれた。
原田 あのねえ、手品があるんですよ、おれが名古屋で買ってきた。それをまず優作に見せたんだ。それを暴力的に扱ってもネタがわかんなかったけどね(笑)。
松田 うまいんだ、また、仕草が。
原田 それをまた、ネタを覚えて優作がなにかやったんでしょう、きっと。
松田 清順さんと葛生さんにね。
原田 そうやって仕返しするわけ?
松田 いやあ、余技ですよ、余技。
大楠 マジでくやしがってたね。三日ぐらいしてから葛生さんが“ねえ、ほんとはどうなってるの?”って聞きにきたもの(笑)。
原田 くやしかったんだろうねえ。
———どういう手品?
原田 とにかく、お金が出たり消えたりする、他愛ない手品ですよ。
松田 こんな浅いキャップのなかにさ、こんな厚い五〇〇円ぐらい、パッと入って消えちゃうの。ほんと、アタマ痛かったね。性格出ますね。おれ、叩きつけたもんね(笑)。
原田 おれはもう、叩きつけられたとき、ばれたと思ったものな、バラバラになったから。それでもまだわかんなかった。隠し方がうまいんだね。暴力の前には負けるかと思った(笑)。
大楠 監督は、ふったりしてましたよ。音がする、おかしいって。
松田 それ以上はないんだけどね。その程度ですよ、鈴木清順も(笑)。ホッとしたよ。
この手品、花田プロデューサーに聞いたら、原田さんは『ツィゴイネルワイゼン』のときからやってたそうだ。「まだやってたんですか」と、花田さんもあきれていた。
原田 あれも、だまされるほうも、ある程度、素直さが大切だね(笑)。
松田 それはだますほうにもほしいね。
原田 落語にある“イタチ”なんて、昔ね、ほんとにあったんだよね。
大楠 え?わかんない。
原田 見世物小屋でさ、六尺ゆたかな大イタチがいるよって、口上がいてさ、口上のうまさでだまされて満足する。それが、ひとつの芸だからさ。大イタチがいるよ、ほらほらっ、そこ寄ると危ないよ!なか入るとさ、六尺の板に血がついてる。
大楠 (笑)
原田 知らなかった?
大楠 知らない(笑)。
原田 危なくないじゃないか!っていうとさ、倒れると危ないって(笑)。その口上のうまさに満足して帰ってった。
松田 そういう素質あるもんね、原田さん。聞き入っちゃうもんね、うまいんだよね。
原田 そんなこたあない。落語のネ夕だからさ(笑)。
———『陽炎座』で、優作さんが花火するとこ、皿のなかに大楠さんの影が映ってるでしょ。どうやって撮ったんですか?
原田 シーッ!ないしょ、ないしょ。
松田 力抜けるよ、ナァンダ~って。
大楠 いや、実際に映ってるんですよ。
———でも、皿のむこうに大楠さんがいないでしょ。合成でもないし。
原田 あれが不思議なんですよ。
———むこうには板というか戸があって。
松田 大イタチがね(笑)。
———鉄砲の先に折り紙のほおずきが光ってるのは、コードがついてるんですか?
原田 ついてないよ。
松田 おれは水の上、歩いたでしょ。
原田 なあ、ほんとに歩いた。
大楠 歩けたのよねえ。大丈夫かなって見てたら、歩いちゃった。あたしなんか、桜の木の上を歩いたでしょ。
———え、それは気がつかなかった。
大楠 あ、もういっペん見てください。
原田 修験者が極みに達すると空中に浮遊するっていう、な、あの術でしよ。
大楠 そうです、水の上も歩けますし。
松田 あれ、浅瀬に見えるけどね、ほんと深いんだから。濡れなかったもの。
原田 みんな、それ冗談だと思うだろうね。
松田 こういう話すると、たくさんあるんだけど、信用しないから。
大楠 いいなあと思うのは、品子が桜の上にいたり、松崎が水の上歩いたり、そのときはすごいシーンだと思わないのよね。サーッと見ちゃうんじゃない?
———中村嘉葎雄さんの舟がグルグルまわるでしよ。
大楠 どうしてなんでしょうねえ。
原田 まわったんだよ、ほんとに、な。
大楠 嘉葎雄ちゃんならまわりそうね(笑)。
原田 いやがったんだよ、舟が(笑)。
松田 いいペースになってきたね。
原田 話の方向が出てきましたな。
大楠 (笑)。
でたらめのようですが、わりとまじめな話もまじっております。以下“座談会ごっこ”ふうに話は進むんですな。
大楠 ほおずきのシーン、あれはほおずきに言い聞かしたのよ、しっかりと……おまえたち、いいかと。
原田 台本読ましたの?(笑)
大楠 それでキャメラの位置も教えて、ほおずきたちと打ち合わせしたの。ちゃんと言うことを聞いてくれましてね。
原田 魂、ですな。これはもう、だれの力でもないね。科学的には非常に単純なことなんだけど(笑)、科学じゃ、あんなことはできない。やってみろってんだ。
松田 そんなの目のあたりに見てると、なんでもできそうな気になっちゃう。
———人形振りは専門の人がついて?
大楠 ええ、もう踊りは得意なもんですから、ぜひ踊らしてくださいって、監督にね。ね、芳雄さん(笑)。
原田 ええ、ぼくも日本舞踊はね……あの映画ではお見せできませんでしたが、もっとちゃんとした、何年もかかるという踊りを、ほんとは踊れるんです。
大楠 六歳の六月六日から、おけいこ始めたんでしょ(笑)。
原田 ぼくは、もっと遅かったね。
大楠 でも、家柄のある中村嘉葎雄さんたちは、みんな六歲の六月六日から始まるのよね。
原田 ぼくは、まま子だったから、高校卒業してから(笑)。こんど、お見せします。
大楠 なにか小道具で、いるものあります?
原田 あります、コーモリ。
大楠 コーモリ傘?新作ですか?
原田 いや、現代日本舞踊です。
———赤いうちわさして狸ばやしで踊るのが日本舞踊なのかと思いました。
原田 あれはほんの片鱗です。
大楠 でも、基礎のあるのとないのと……。
原田 ぜんぜん、ちがうでしょ。
大楠 ほんとに(笑)。
松田 さすが嘉葎雄さんは、あでやかでしたねえ。
———あでやかというか……(笑)。
大楠 負けましたよ。
原田 あの場合、ほんとは半玉(玉代が半分の半人前の芸者)なんかの歌なんですよね、ちゃんと振りがある。それから幇間、たいこもちの踊りなんですよ。ただ、ボーカルが麿赤児だったもんで、ボーカルに合わせてアレンジしたら、ああなっちゃった。
大楠 古典ばかりこだわってると進歩がないから、新作も大切なんじゃないでしょうか。
原田 でも、ぼくは決して伝統を外してないと思います。
大楠 伝統を、重んじるほうなんですか?伝統なんてあたしはないもん。
原田 ないんですか?
大楠 ダメですよ。芳雄さん、あるの?
原田 ありますよ。
大楠 いま、デントウって言うんですか?
原田 うちじや、デントウって言ってますけどね。
大楠 デントウが切れた、とか?
原田 そのデントウじゃない(笑)。因習と勘ちがいしてると困るな。
松田 遅いね、キナコさん。
大楠 もったいぶってんのよ。
———フィナーレを飾りに。
大楠 鈴かなんか持ってくるのよ(笑)。
原田 もう充分でしょ、ぼちぼち……。
———でも、荒戸さんが来るから……。
大楠 荒戸さんが来たら、独占記者会見やればいいでしょ。
松田 気ぃつかってんだよ、終わったころに来ようと。
大楠 ほんとにそうですよ。
松田 切ったらすぐ入ってくるよ(笑)。
テープのスイッチを切ったとたん、キナコさんこと荒戸源次郎社長が、ほんとに鈴を鳴らしながら入ってきた……ならおもしろかったのですが、ともあれ、荒戸さんが来てからさらに変なふうに盛り上がって「最後は必ず相撲の話」になって今場所は終了いたしました。みなさん、お疲れさまでした。
バラエティ○1981年