【1977年10月】
インタビュー◉山根貞男
身長185センチ。とにかくデカい。のっぽというのでなく、大きいなあという感じ。それが松田優作に会ったときの第一印象だ。黒メガネ、黒の革ジャンパー。なにかすごみがある。東京・六本木のとある店で、インタビュー開始。少しして黒メガネをはずす。と、実にひとなつっこい眼の表情なのだ164センチの私(山根)はホッとした。
———もともと俳優志望だったんですか。
松田 ええ、小さいころから。
———きつかけはどういう……?
松田 軽演劇のどさまわりを、近所のお姉ちゃんに連れられて見にいつたりして、一時期そういうものをやりたいと思っていた記憶があります。
———映画は?
松田 小さいときから日活映画を見てた。ほとんど見てたですね。活劇が好きで、憧れてたから……。石原裕次郎さんの『嵐を呼ぶ男』とかね。
———えっ?そんな昔の映画を?
松田 小学生になったか、まだなってなかったかというころですよ。日活以外では、東映のチャンバラ映画を……。
———それはまた、ずいぶん小さいころからの映画ファンだ。
松田 映画館に入ったときの暗い感じが好きで……。あの、うしろめたいような……。
———で、俳優になろうと?
松田 いや、俳優という職業意識なんかなくて、ああいうふうになりたい、ああいうところに出てみたいという願望で……。
———小さいころから、人に見られてなにかするのが好きだったんですか?
松田 そうじゃなくて、映画館のあの感じが好きで、いつも見てるばかりじゃなく、あのなかに入ってみたい、と……。
———なるほど、スクリーンのこっち側、観客席のほうじゃなく、スクリーンのなかの世界に入りたい、と。では、監督をやりたいという気は?
松田 ないです。
———俳優なんですね。じゃあ、いま俳優になっているわけだから……。
松田 小さいころからの思いどおり、なるようにしてなった、という感じです。そういう星のもとに生まれたことを感謝してます。
———いま、映画『人間の証明』とテレビの『大都会PARTⅡ』のかけもちだから、忙しいでしょうね。特に『大都会……』は毎週だから……。
松田 憧れの渡哲也さんといっしょだから、単純にうれしいですよ。憧れの日活スターや憧れの日活監督といっしょですから……。
———『太陽にほえろ!』のときとはちがいますか?
松田 現場で遊べるという点では『大都会……』のほうが遊べるのでおもしろい。スタッフは石原プロの人だし、監督は日活の活劇映画を撮ってきた人なんで、テレビ映画だけれど、つくり方は本篇(劇場用映画のこと)と同じですからね。そのなかで、いままでとちがった遊び方を少しずつできる。一回に一カ所はおもしろいことができるんです。
———これまでの出演作品で、自分の力を全部出しきったと思うのは……?
松田 うーん……自分の力がどういうものかわからないから……。
———やりたいことをまだやってないと思いますか?
松田 とにかく自分としては、本篇という一回性に全力投球を年に三回か四回できればいい。そのために、どうやって遊ぶかということを考える時間を持ちたい、と思います。
———映画にすごく熱を入れてるんですね。じゃあ、これまでに出た映画で、いちばん力を出せたと思う作品は?
松田 力というか、出会いということでは『竜馬暗殺』です。原田芳雄さんや石橋蓮司さんと出会えたし……映画って、こんなすごいものか、と思ったですね。
———すごいとは?
松田 現場での燃焼の仕方、緊張の持ち方というか、なんなのかわからないが、すごいものでした。だから『竜馬暗殺』で、映画に出られたという感じがした。
———映画との出会いですね。
松田 それで『暴力教室』に出て、はじめておれは映画俳優になれたと思いました。とにかく緊張が一カ月(撮影期間)保てたということです。
遊びと緊張。ちよっと考えると正反対のようだ。が、松田優作にとっては同じことらしい。映画に出て演じるということは、ものすごい緊張であり、なおかつ遊ぶおもしろさなのだ、と。そうかもしれない。しょせん映画なんて、バカバカしい夢の遊びだ。けれど、つくる者にとっても、見る者にとっても、大変に切実で大切な遊びなのだ。
———映画『暴力教室』に出てた舘ひろしは魅力的でしたね。
松田 すばらしかったですよ、彼は。
———演技のうまい、まずいでなく……。
松田 存在感というのか……35ミリの映画に出て、映画館に来る人がわざわざ入場料を払って見にくる画面、その画面を満たしていける力を感じて、ぼくは恐怖を感じましたね。最初は、つっぱってやってきたんです。だけど、そのうち、なついちゃって、あのあとも電話はかかってくるし……。とにかくすばらしいですよ。それに、すごい色気があります しね。
———色気?
松田 渡哲也さんなんかも、すごい色気ですね。そばにいても感じます。
———そこにいるだけ、画面に映ってるだけで実に魅力的だということですね。それがスターのスターたるところだが、これはすごいと思うスターはだれですか?
松田 渡哲也さん、原田芳雄さんです。
———水谷豊、ショーケンといった人は?
松田 うーん、同世代ですし……。要するに、緊張を持てるライバルですね。渡さんに関しては、ぼくらがなろうとしてもなれない最後のスターだと思います。
松田優作の渡哲也、原田芳雄に対する惚れ込み方は、大変なもの。渡、原田のいいところを、たちまち自分のものにしてしまう。たとえば歩き方ひとつでもだ。原田芳雄が最近夕バコをやめた。と、自分も、一日八〇本吸ってたのを一五本ほどに激減。また『大都会……』では、渡哲也との共演がなによりの楽しみだ。石原プロの撮影は、朝六時とか七時から始まることが多い。渡哲也はそんな早朝でも、撮影開始の一時間前には現場へ来る。すると松田優作も負けじと早起き。「きょうは渡さんのほうが五分早かった、いやきょうはおれのほうが先だった」と毎日競争しているとか。
———『大都会……』での演技を見てると、大変ユーモアが感じられますが、あれは監督の指示で……?
松田 いや、ぼく自身、渡さんとのバランスを考えて……。まあ、陰と陽というか、それを意識して、陽で行こうと……。
———もともと性格のタイプは、陰と陽のどっちです?
松田 ぼくは陽ですよ。
———でも、あまり陽気な役はない。
松田 できないと思われてるんですよ。『ひとごろし』で少しやりましたが……。苦しかったですよ、あれは。
———だいたいが、ぐっとなにかに耐えてるというイメージですね。だから、たとえば映画『暴力教室』のときのような、恋人なんかいなくて、荒っぽさをうちに秘めたハードな役がぴったりだ。しかし、そうじゃない役ってのは、どうでしょう?
松田 映画なんかだと、女を抱いたりという役をやりたいですね。
———もっとすごく、強姦する役とか……。
松田 ええ、やってみたいなあ……。
———それはおもしろい。
松田 渡さんも言ってましたけど、生活があるような役をやりたい……。これ、渡さんの言葉ですけど、そう思いますね。
———ファン層はどういう人です?
松田 若い人が多いですね。小学生、中学生、高校生……。
———すると三浦友和や草刈正雄のファンと同じような年齡ですか。
松田 同じでしょうねえ……。
———自分では、ちがうと思いませんか。
松田 昔は思いましたけど……。
———いまは?
松田 好きでいてくれればいいです。
———昔は、どう思ったんです?
松田 こんなガキにファンレターもらうと困るんだ、と……。ああ、そうだ、暴走族にもてるんですよね。
———なるほど。で、松田さん自身、高校のころはどういう……?
松田 かなりのワルだったから……。とにかくワル仲間が集まって、けんかばっかり……。
———軟派じゃなくて硬派?
松田 どちらかというと硬派です。
———ガールフレンドは?
松田 ほしいんだけど、まったくなにもできなくて……(苦笑)。
文字に書き直すと、インタビューはすらすら進んでいるように見える。が、実際はそうじゃない。松田優作は言葉少ないタイプだ。ことに自分のことになると、実にてれくさそう。映画や他人のことについてだと、表情はがぜん生き生きする。ナイーブな精神、そして185センチの大きさ。おそらくファンはそこに、強さとやさしさを感ずる。自分のことを、やさしい人間だと思いますか、と質問した。と「とうですかね」と、苦笑い。そのあと、すぐ「ええ、やさしいですよ、ぼくは」急いでつけ加え、恥ずかしそうにニヤリ。
———每週テレビに出てて、人気があるってことは、いろいろ大変だと思いますが……。
松田 昔は若かったから、おまえなんでおれの顔を見てんだ、というようなことがありましたけどね。いまは、やっぱりある意味では、夢を提供するような稼業ですから、なんか、こう……なんだ、あの人、あんな人か、なんて言われないように、できるだけ表へ出ないようにしてます。ちょっと意識的にしてるうちに、出不精になっちゃって……。
———それはつらいですね。
松田 そんなことはありませんけどね。ただ……こういうことで、たくさんの金もらって、なんかやっぱり申しわけないみたいな気がして……。
———申しわけない?世間に対して?
松田 いや……なんというか……自分自身に対してというか……。
———もっとスパッと、プロフェッショナルに考えられないもんですか。
松田 ええ、だから、もらったぶんだけ早くパーッと使って、早く消してしまったほうがいいと思ったり(笑)。
———ファンにサインを求められたら?
松田 ひとりずつきちっとします。それで喜んでもらえるんなら、サインなんかなんでもない、と。とりあえずそこで、うしろめたさみたいなものを少しけずってっというふうに思うんですね。
———きびしく考えるんですねえ……。
松田 なんか、ぼくには、自分をいじめていくところ、ストイックにストイックに自分を持っていくところがあります。本来そうじゃないから、そうしてるのかもしれないけれど……。特にいまはそうしようと……。
———さっき「昔は若かったから」と言ったり、そんな年齡でもないのに「昔」や「いま」と言ったりするのは?
松田 例の“事件”以前と以後です(きっぱり言っててれくさそうな笑颜)。
———あ、そうか……。そんなふうに言えるほど区切りがついてるんですか?
松田 欲がなくなりましたね、この稼業以外で……。要するに、表ヘ出たくない、かかわりたくない、そのぶんだけこの稼業に燃焼できる、緊張を保てる、と……。
———俳優だけでやるんだと居直った……。
松田 そうですね、これがすべてだ、と。よそで燃焼するんだったら、この稼業で燃焼したい。よけいな闘い方はしたくない。生意気に言えば、そう思います。
取材記者らと起こしたトラブル“事件”後は二週間、じっと家にこもり、一歩も外に出なかったとか。だいたいが、しゃべることによって発散させようなどと考えるタイプではない。ある人が「松田優作には修行の精神があるようだ」と言った。自分に苦しいことを課して、それに耐えぬいてみせるという精神だ。ものごとは徹底しておこなう。その集中力は強烈で、たとえばギターを覚えるとなると、ものすごい短期間に演奏法をマスターしてしまう。最近、ひまなときは、自宅か映画館かアスレチッククラブだけにいる。そのアスレチックにしても、一回二時間くらい、ふつうの人の三倍くらい激しい肉体訓練をやるとのこと。松田優作の個性的な魅力は、そんな精神から生まれているにちがいない。しかも、ひとなつっこいから、撮影スタッフには大変ウケがいい。
———俳優という仕事だけに燃焼するというのが、さっき言われた「現場で遊ぶ」こととつながるのでしょうね。で、渡哲也や原田芳雄のすごさも、そういう燃焼のすごさなんだと……。
松田 渡さんや原田さんを見てると、なんというか超えてるって気がするんですよ。いろんなことすべてに関して……。ストイックに耐えていく作業が、逆にいえば、いちばん闘っている、と……。なにを言われても全部自分のなかにのみ込んでしまって、自分がいつ、どこで、それを燃焼させりゃいいかを考えて耐えている……。それが、あの人たちの映画に賭ける情熱だ、という気がするんです。実際、渡さんの『仁義の墓場』を見たとき、あの人のなかでなにかが超えた、と思いましたね。
———でも、映画に賭けるといっても、日本映画はダメになってるといわれているし、たしかに昔みたいに盛んじゃない……。
松田 だから、逆にいえば、ダメになりつつあるから、ぼくらのようなペエペエが入っていける、いまがチャンスだ、という気がありますよ。かつて東映の撮影所へ行ったときに、まさかこの撮影所で映画を撮れるとは思ってもみませんでしたね。まして主役で(映画『暴力教室』)……。当時、高倉健さんや鶴田浩二さんがつぎつぎ撮ってて、こっちは映画館で「健さんっ!」なんていって見てるときだから、絶対こういうところに自分は入れっこない、と……。
———ところが、その後、スターのあり方がちがってきた……。
松田 なんというか、雑ぱくな時代になつて……闘い方を知ってるやつが強くなっていく。たとえばピラニア軍団にしても、ひとりのヒーローじゃなくて、集団のなかから力を持っていく……。
———たとえば昔の日活アクション全盛時代みたいな映画は、もうつくれないだるうが、ダメなときはダメなときなりの映画があるだろう、ということですね?
松田 ええ、日活がひっくり返る寸前に、ニューアクションが出てきたでしょ?そういう新しい波がさらに現れると思います。ハリウッドがダメになってニューシネマが出てきたときも、そっちのほうがぼくらはおもしろいと思ったし……そういうひっくり返し方、新しい波があると思うんですよ。
———そうでなければ困ると思います。それにしても、そういう映画へののめり込みってのは、いったいいつから……?
松田 やっぱり『暴力教室』からで……。あの“事件”以後、かなりストイックになり、わざと意識的に自分をいじめたりしていたところへ、ポンと来た話だったんですね。で、耐えていたもの、エネルギーを、あの映画に投入できたから……。
———そこで俳優という稼業一本に賭けるんだ、と……。
松田 ぼくはわりと輪廻とかいうのを信じるんです。原田さんと会ったときなんか、何百年前には、兄弟だったんじゃないか、と思ったりして……(笑)。
———俳優になるべくしてなった、ということですね。占いなんかは信じますか?
松田 いや、天命とか宿命があったりするような気がするんです。で、それに対し、逆らわないでいこう、と……。ただ、それでも、いま闘わなきゃならないことでは、100パ—セント力を出したいな、と……。
映画『人間の証明』の撮影は、いよいよクライマックスに。先日、ニューヨーク・ロケの撮影風景を雑誌で見た。すると、主役の若い刑事・松田優作が、ハーレムの風景にみごと溶け込んでいる。ちよっとびっくりした。そんなふうに日本の若い俳優が、アメリカの街や人間とバッチリ張り合っているなんて、そうはないのではないか。たんに185センチの長身だからではない。そう、存在感の迫力のすごさだ。インタビューで、それを感じた。なによりも、映画へ賭ける情熱のカッカと熱いこと!思えば、まだ二八歲。若い。たとえていうなら、いままさに疾駆せんとするスーパーマシンの、ダイナミックな力が感じられる。ある日『人間の証明』のロケ現場をのぞいた。活気にあふれ、撮影準備に走りまわる数多くのスタッフの人々。松田優作はどこかと探せば、車のなかで出番を待っていた。夜間ロケだ。あたりは暗い。そんななか、車のなかの明かりもつけず、じっと待機している。みなぎる力をたくわえ、一九八〇年代のスターとして飛び立たんとして……。
バラエティ○1977年