四歳の娘が「ユウサクさん元気?」って言うんだ!

【1981年4月】

松田優作、三一歲。いま映画界でもつとも注目されている男が、工藤栄一監督と四つに組んで『ヨコハマBJブルース』を撮影中だ。その直後には鈴木清順監督と、やはり初顔合わせで激突。六月にはロックシンガーとして全国ツアーがひかえている。パワーアップして八〇年代を疾走する熱き男の、知られざる内面を直撃インタビュー。

———いま撮影している『ヨコハマBJプルース』、松田さんが敬愛している工藤栄一監督との初めての作品ですけど、念願かなって、かなりノッてるんじゃないですか?

松田 いやあ、最高ですよ。(工藤監督は)もう、ベストですね。ほんとに……惚れてますからね、あのオッサンに(笑)。

———工藤監督と映画をやりたいというのは、ずっと前から?

松田 そうね、五、六年ぐらい前からですね。そのころからラブコールをしてたんですけど、すれちがいばっかりで。

———こんどのゴールデンウィークに封切られる映画のなかでは、この『ヨコハマBJブルース』が、いちばん異色作じゃないですか。工藤・松田コンビがなにかやらかすんじゃないかって、映画ファンがみんな注目していますよ。工藤監督との初顔合わせした感想はどうですか。

松田 とにかく初めてなので、お互いがどこまでいけるかという不安もあるんですけど、ぼくのほうは、やりながら恋心が日増しにつのって、朝、顔を見るだけでもいい、という気分にまでなっちゃってますね(笑)。

———横浜オールロケで、松田さんの役は、売れないロックシンガー兼探偵ですね。いちばんの見せ場というと?

松田 見せるという点では、工藤さん自身ですよ。工藤さんが仕かけた画が、いったいどこまで出るか。ぼくらはまったく素直についていってるだけですから。ストーリーだって、ドンパチがそんなにあるわけじゃないし、すごくシンプルなつくりなんです。話のヒントとしては、エリオット・グールドがやったフィリップ・マーロウものの『ロング・グッドバイ』、ああいう感じですね。

———ぼくらが楽しみにしているのは、今回は、歌手としての松田優作が画面で活躍しますね。主題歌の『ブラザーズ・ソング』や、挿入歌が入ってるLP『ハーデスト・デイ』(ビクター)のテープを聴きましたが、とてもいいできですね。楽しんでやってる。

松田 スタッフの力ですよ。バックバンド(クリエーション)もいいから。ただ、ぼくは役者ですから商売でやってる人のように口で音楽のことしゃべれないでしょう。だから、いつも耳を磨いていなきゃいけないなあ、と思ってるんですよね。

———じや、ふだんからやってるんですか、耳を磨くことは。

松田 ハハハ、耳掃除みたいだな(笑)。

———レコード聴いたりとか。

松田 しょつちゅう聴いてます。

———ロックですか、ジャズですか?

松田 いまはもうロックですね。

———具体的にいうと、どういうミュージシャン?

松田 プルース・スプリングスティーンがいちばん好きだし、ボブ・シーガーとか、あのヘんですかね。刺激されたというのは。レゲエもそうですけど。

———去年、全国二八都市をまわるツアーをやってから、ロックシンガーとしても、すごく大きくなった感じがしますね。

松田 ああ、ロックシンガーにはなりたいですね。やっぱり三〇過ぎになって始めたギャップって大きいけど。

———以前はジャズが好きだったんでしょう?

松田 いまでも好きですけどね。前は「ロックンロール?くっせえなあ、くっさい音楽をガジャガジャ鳴らしやがって」みたいなね、ロックはガキのやるものみたいな、短絡して考えてたときがあったんですけども。まさか自分でロックンロール歌ったりするとは考えてなかったなあ。

———俳優で、歌手活動も続けているから、どうしてもイメージ的にショーケンのことを思い浮かべちゃうんですが。

松田 ええ、ぼくは……(言葉を探して)……愛してるっていうか、尊敬してるっていうかね、あの人のことは……。この映画に入る前にも、会って話したんですよ。

———映画に関して?

松田 いや。ただ、酒を飲んでね。あの人も(舞い上がる身ぶり)完全にこれだから、急に話がとぶからね(笑)。急に「テープ聴かない?」なんてね。ついていけないんだよ。

———そうすると、会っているときは松田さんのほうが、あとから追っかけていく感じですか。

松田 ぼくは、彼のあとから追いかけ、しがみついている感じ。きつと生涯抜けないんじゃないですかねえ、あの人を。ぼくとは、妙な因緑といいますか(ショーケンが)『太陽にほえろ!』で一躍有名になって、番組を抜けて、そのあとがまに入ったのがぼくだったでしょう。

———そうですね、ジーパン刑事になって……。

松田 それが、ぼくにとって大きなことでしたね。ライバルっていうふうに自分で思うほどライバルじゃなかったんだけど、えらくでっかい人で。彼がいたんで、いつも追っかけてる、ここ何年間、彼のおかげで触発されてきた、っていうのはありますよね。

———なるほど。それにしても、まわりから「そろそろ追いついたんじゃないか」という声も聞かれますけど。

松田 (手をふって)いいえ、とーんでもないっすよ!まだまだっちゅうか、別個のもんですね。もちろん、生きてるから神じゃないけど、どっちかっていうと人間と神のあいだみたいなとこまで(ショーケンの)レベルは上がっちゃってるんじゃないかと思うね。

この国であれくらいのレベルの人は、あの年齡でいないんじゃないすか?ぼくなんか、それがわからないころは「なんだ、ショーケンなんて、バカヤロウ」と思いながらやってきたけど「あ、こりゃダメだ。别のもんだ」と思ったら、すごく楽になりましたね。「こうなったら、自分は自分で一生懸命やっていこう」という気になって……(しみじみと)。

———松田さんの友人関係は広くて、ショーケンのほかにも、水谷豊さんとか原田芳雄さんとかいますけど、松田さんの音楽活動のほうをみなさんはどう見てるんですかね。

松田 うーん、あんまりそういう話はしないすね。みんなは、すばらしい友人であったり、尊敬する人であったり。

———ロでは言わないけど、お互いに「あいつ、あんなことやってる。チクショウめ」って触発があるってことですか。

松田 それは、あるんじゃないかな。でも話さないですね、仕事の話はほとんど。

———会えば酒を飲むって感じですか。

松田 ええ。

———男は黙って……。

松田 いやいや、つまんない話をね、だらだら、だらだらしてますよ(笑)。

———ショーケンも今月から映画に入るけど、松田さんは『ヨコハマBJプルース』が終わると、こんどは鈴木清順監督の『陽炎座』に入るでしょう。たて続けに異色監督の作品に出演。楽しみですね。

松田 いまは工藤さんにまいってて、先のことを考える余裕がないんでね、どうしようかなと思ってるんですよ。あいだに一週間しかないから。

———気分を転換させるのがむずかしいでしょうね。

松田 むずかしいですねえ。まあ『ヨコハマBJブルース』のキャラクターと一脈あい通じるようなものが『陽炎座』のほうにもあるから「よけいなことを考えないで風になつちゃおう」的なね、フワーッとやって、あとは鈴木さんにおまかせしていけばなんとかなると思ってますが……。

———『陽炎座』は、ひとロで言うとどんな映画ですか?

松田 こっちの作品に入る前に上がってきたのを読んだんですけどね、まあ、お化けみたいな映画でね(笑)、すごいですよ、確かに。

———『ツィゴイネルワイゼン』で、鈴木監督は、賞を軒並みさらってしまつたから、次回作はどうしても注目されますね。

松田 そうですねえ。やばいっすよ。ぼくが出たら急にレベルが落ちたなんて言われたりして。……ま、いいんじゃないすか?ぼくもことしは勉強の年だから。走れるだけ走りたい。

———いずれにしても、大変な年になりそうですね。

松田 そうですねえ。怖いぐらいですよ。

———ところで『ヨコハマBJブルース』は松田さんの原案ですけど、そのほかにもいろいろあたためている企画があるんですか。

松田 中上健次の作品とか、ベット・ミドラーがやった『ローズ』の男性版のようなものはどうかな、なんて考えて、こちらから企画書なんかもけっこう書いているんですけどもね、なかなかうんと言ってくれなくて……。

———会社がうんと言わないのは映像になりにくいという……。

松田 いや、ぼくはなりやすいと思うんですけども、会社自体ここがね(頭を指でついて)堅いといいますか……。

———松田優作のイメージとちがうと思われちゃうんですかね。

松田 自分ではあまり意識してないんですけどね。イメージを植え込むほど強烈な役をやったこともないし。……なんとなく雰囲気なんじゃないすか?ふだんの生活の。たとえばレイバンのサングラスをかけてブスッとして無口だとか。それがそのまま画面に反映されているように思ってるのかもしれない。およそ(実際とは)かけ離れていますけどね。

———そうなると、新しい自分を打ち出してみたいという苛立ちのようなものはありますか。

松田 それはありますね。だから、たとえば『野獣死すべし』なんかでも主人公の伊達邦彦を、原作とはまったく逆の感じに、こっちはしちゃうわけですよ。スーパーマンじゃない、肉体を持たないふうに設定してね。

———あれで角川春樹さんとけんかしましたね。

松田 だからそういうイメージの変換というのは、けっこうやってきてるんです。ただ、どうもうたい文句みたいなものがつきまとってね。会社側としてはハードボイルドみたいなセンで、うたい文句が欲しいんでしょうけど……。

———けんかといえば、最近はあまり武勇伝を聞きませんが?

松田 ハハハ、ぜんぜんないっすね、もう。

———人間が丸くなっちゃったということですか。

松田 映画の企画とか打ち合わせというときは、前よりもひどいですけどね、怒鳴ったりなんかすんのは。でも、それ以外のことで、腹立つことはあまりないすね。

———先ほど、いろんな企画の話をしましたが、そういうのはいつ考えるんですか?

松田 每日考えてますね。なんとなく酒飲んでても急にフワーッと考えが浮かんできて、それで監督とか脚本家とかカメラマンに電話して「すぐ書けっ」とか「いまから来てくれっ」なんてやっちゃうんです。

———夜中でも?

松田 真夜中でも。ところが待ってる一時間くらいのうちに、酔ぱらってベロベロになっているから「なにしに来たの?」みたいなことで(笑)。ほんとうに申しわけない。だから、みんなに「夜中だけは電話はかんベんしてくれ」って言われてますよ。

———そういうのは外で飲んでる場合?

松田 どこでもそうですね。外でも家でも。でも、ダメですね最近は。すぐ酔っちゃうから。このごろ、映画に入ってからはほとんど飲んでませんなあ。二、三杯くらいいっちゃうと、もう、いい気持ちになって、そのまま寝ちゃうというふうにね。

———それは精神的なもので?

松田 どうなんですかねえ。年なんじゃないすか(笑)。

———もう、人の一生分は飲んじゃった?(笑)

松田 あまりよけいなこと考えないようにしてるから、集中して飲めるんじゃないかな。横の人間に気を遣ったりとかするのないですからね。

———そういうのは、昔からもそうじゃないんですか。

松田 いや、けっこうね、気が小さいもんですからね(笑)。あったんですよ、昔は。で、事件を起こしたりとかね(笑)。

———それでもテレビの「パンチDEデート』のような番組に出る女の子って、必ず「理想の人は松田優作さんのような人」って言いますよね。それくらいファンが多い。松田さんはファンというものを、どう意識していますか。

松田 そんなに意識しないほうです。意識しちゃつたら、自分が止まってしまうから。ファンほど恐ろしいものはないし、勝手なものはないし、また、ありがたいものはないですね。そのときばっかりに固執して、こっちが抱き込んでいこうとしても、むこうはどんどん変わっていってしまうし、ぼくよりいい人を見たら、そっちヘ行っちゃうしね。それを「待て」とも言えないでしょ。こだわってしまうと、かえってつまんなくなってしまうんですよ。

———じゃファンに媚びるということはしない?

松田 意識して考えたことないな。ま、歌ってるときなんか、ステージ見にきてくれるとすごくうれしいから、ナマでやってることもあるし、手をふったりはしますけどね。

昔は、家から仕事場へ行くまで、目いっぱいカッコつけて、演技するようなこともあったなあ。自分を俳優ふうに見せて(笑)。

———そのへんは、ふっきれたというか、格好は気にしない?

松田 かまわないっすね。别に頭が禿げようが白髪になろうが、禿げればカツラも使えるし、おもしろい俳優になるかもしれないから(笑)。

———松田さんというと、一匹狼ふうで、孤独を愛する人に見えますね。ところが、結婚もなさっていてお子さんもあるのに、家庭の話がぜんぜん出てこない。においもしない(笑)。

松田 そうでもないっすよ。(みんなが)聞かないからでしょうねえ。

———ひまなときは、家でどうしてるんですか?

松田 なにもしないすね。朝起きたら「早く夜が来ないかな」と。夜が来たら酒が飲めますからね。昼間から飲むのも、ちょっとてれるし。だから、夜までなにしてようかと。ほとんど外に出ないし。

———じや、レコードを聴いたり本を読んだり。

松田 そうすねえ。

———お孃さんはいくつ?

松田 四つですかね。幼稚園に行ってます。

———かわいいでしょう。

松田 (顔をほころばせて)かわいいっすよー、ほんと。かわいいですね。

———いまは撮影で横浜に泊まりがけだから会えないですね。

松田 一カ月近く会ってないですね。電話で話すだけで。

———どんな話をするんですか。

松田 むこうはぼくのことをユウサクと言うんです。「ユウサクさん、元気ぃ?」(笑)、他人にしゃベってるみたい。「ちゃんとごはん食べてるぅ?」なんて言われると、クーッと来ちゃったりして……。

———教育方針はありますか。

松田 ぜんぜん。無能な親なもんですから、うちの女房にまかしたほうが……。原田(芳雄)さんなんか、こどもと話したり公園連れてったりしてるのを見てると、ぼくもそういうふうにせにゃいかんのじゃないかと思ったりするけども……。

———女の子だから、いい女になってほしい?

松田 なんちゅうかねえ、まあ……てれますなあ、こういう話は。アハハ。

———じゃあ、女性の話。松田さんの“いい女”のイメージを聞かせてください。

松田 しょっちゅう変わっちゃうからねえ。

———たとえば、共演した女優さんのなかでは、とか。

松田 だいたい、共演する女優さんていうのが、あまりプライベート的に心がときめかないんですよね。どうしても画面に映ったときの顔とかを考えちゃって。ファックしたいような気持ちにさせてくれませんね、なかなか。まあ、楽しい人がいいですけどね。

———浮いた噂も出ないですね。

松田 どうしてでしょうかね。あんまりマメじゃないからかな。チャンスがあれば、ってギラギラ狙ってはいるんだけども(爆笑)。

———松田さんだと、すぐ寄ってきそうな感じだけど。

松田 それがね、なんとなくこう、怖いっていうかね、叩かれるんじゃないか、みたいな感じがあるらしいんですよ。共演した女優さんなんかに聞くとね。がっかりしますなあ。

———でも、女性は殴らないでしょ、基本的には。

松田 そうですね。女房はずいぶん叩きましたけど(笑)。

———一度お聞きしたかったんですけど、典型的なラブストーリーみたいのをやってみたいと思いませんか。

松田 やりたいですねえ。シンプルなのをね。ウッディ・アレンの『マンハッタン』ふうな、さりげないラブストーリーがつくれればいいな、と思いますね。

———最後になりましたが、これからの予定というのは。

松田 『陽炎座』のあと、六月上旬からコンサートのレッスンやって、六月二一日から七月二七日まで、全国一五カ所でコンサートをやります。それが終わったら、テレビやって。

———ぜんぜん休まないんですか。

松田 ええ、ことしは休まないで、テレビでお金を稼いで、来年一発目にまた工藤さんの作品やって、それから半年遊んで、使っちゃおうと思ってます。

週刊明星○1981年4月

《松田優作、語る》

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